エキセントリック収縮に神秘的なものはない
エキセントリック収縮とは、筋が伸ばされながら力発揮する収縮様式を表す。
例えると、アームカール動作時にバーベルを下ろす局面のことである。
これまで、エキセントリック収縮は他の収縮様式(コンセントリック収縮、アイソメトリック収縮)よりも筋損傷が大きく、筋肥大の効果も大きいことが多くの先行研究から言われてきた。
同じ重量で同じだけの回数を行ったのにも関わらず、なぜエキセントリック収縮の方が肥大するのか?
何か神秘的な要素があり、それが影響しているのだろうか…
そこで今回紹介させて頂く論文は、異なる収縮様式(エキセントリック、アイソメトリック、コンセントリック)の運動を動物実験で行い、その原因について調べた研究である。これは先月に出たばかりの最新の論文である。
方法
運動内容
雄ラットの腓腹筋に電気刺激を与え最大収縮する。
実験1
異なる筋収縮様式でグループ分けを行い、同じ数だけ行う。
・エキセントリック群×a回
・コンセントリック群×a回
・アイソメトリック群×a回
実験2
異なる筋収縮様式で同じ力積(負荷×時間)になるようにそれぞれ回数を行う。
・エキセントリック群×a回
・コンセントリック群×b回
・アイソメトリック群×c回
※ 力積はすべての群で同じ
結論
・ 異なる収縮様式(エキセントリック、コンセントリック、アイソメトリック)を同じ数だけ行うと筋にかかる力積(負荷×時間)が異なる。つまり、筋が引き伸ばされた分の張力だけ力積がエキセン>コンセン>アイソメの順で大きくなっていた。そのため筋肥大シグナルの経路であるmTORC1の活性化もその順で高くなり、収縮様式で異なることがわかった。
・ 異なる収縮様式の力積を揃えると、mTORC1の活性化も同じであった。
まとめ
エキセントリック局面では、筋が引き伸ばされる分の張力が肥大の効果に影響しているとのこと。つまり、同じ回数だけ行っているのにも関わらず収縮様式の違いによって肥大の応答が異なる理由は、単に力積が異なるからである。
力積を補正して同じ量だけ行うとエキセントリックもコンセントリックも筋肥大シグナルの応答は同じである。
今まで、エキセントリックの筋肥大説は「水分の損失によるもの」や、「速筋線維が優先的に動員する」など様々なことが言われてきたが、この研究報告から単なる力積の違いによるものだと明らかになった。
エキセントリック収縮で行う運動は、時間の短縮や心拍数が上昇しにくいなどのメリットがあり有効的ではあるが、筋肥大をするためには必ずエキセントリック収縮を含む必要はない。パワートレーニングであるクリーンやスナッチでも、数をこなせば筋肥大はするし、怪我をして可動域が制限されているような人でもアイソメトリック収縮を長い時間行えば同様に肥大はする。
このメカニズムを理解することは、トレーニングプロトコルを考える上で必要であり貴重な情報であることは間違いない。
是非、ダウンロードをして文献に目を通すことをお勧めする。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27688433
Satoru AtoYuhei MakanaeKohei KidoSatoshi Fujita,Contraction mode itself does not determine the level of mTORC1 activity in rat skeletal muscle.Physiological Reports Published 28 September 2016 Vol. 4 no. e12976 DOI: 10.14814/phy2.12976